自動微分¶
モデルが Sequential の型にはまらないとき (重み共有、カスタム損失、変わったアーキテクチャ) は、計算を直接組み立ててリバースモード自動微分に勾配を導出させます。エンジンは micrograd スタイル: Node の動的グラフで、define-by-run、使い捨てです。
Node が持つ値は n 次元の Tensor です。つまり (rows, cols) の行列に効く演算がそのまま (batch, sequence, model) の活性にも効きます。要素ごとの演算は NumPy 流にブロードキャストし、MatMul は行列のスタックをまとめて掛けます。リーフを作るところでは Matrix をゼロコピーの 2 次元ビューとして受け取るので、2 次元のコードは今までどおりに読めます。
Param、Input、Trainer¶
w1 := autograd.Param(tensai.RandomMatrix(2, 8, rng))
b1 := autograd.Param(tensai.NewMatrix(1, 8))
w2 := autograd.Param(tensai.RandomMatrix(8, 1, rng))
trainer := autograd.NewTrainer(optim.NewAdam(0.05), w1, b1, w2)
for step := 0; step < 2000; step++ {
loss := autograd.Input(x).MatMul(w1).AddRow(b1).Tanh().MatMul(w2).Sigmoid().MSELoss(y.Tensor())
trainer.Step(loss) // 逆伝播 + 更新 + 勾配クリア、損失値を返す
}
Param は勾配を追跡して更新する値、Input はデータを包みます。どちらも *tensai.Matrix と *tensai.Tensor の両方を受け取ります。行列は同じ配列を共有する 2 次元テンソルビューになるので、行列から作ったパラメータはその行列を更新し続けます。
手動で回したいときの部品も公開されています: loss.Backward()、p.Grad()、autograd.ZeroGrads(params...)。Backward は要素が 1 つのノードから始まり、勾配に加算します。学習ステップの最後に勾配をクリアするのはそのためです (Trainer.Step がやってくれます)。
ノードの Value() と Grad() は *tensai.Tensor を返します。フィールドではなくメソッドなのは、値がホストメモリにあるとは限らないからです — デバイス常駐のグラフでは、ここが値の戻ってくる場所になります。Shape() は何も取り寄せずに形状を返し、Matrix() は 2 次元ノードの行列ビュー、Scalar() は 1 要素ノードの値、Named("w1") は ToDot 用のラベルです。
演算¶
| 演算 | 形状 |
|---|---|
MatMul(o) |
(…, m, k) * (…, k, n) → (…, m, n)。先頭の軸はブロードキャストするので、2 次元の重み 1 枚がバッチ全体に効きます |
Add, Sub, Mul (MulElem), Div |
要素ごと、NumPy 流のブロードキャスト |
Scale(s), Neg() |
スカラー倍 |
AddRow(row) |
(m, n) + (1, n)。Add が元々ブロードキャストするので、意図を明示するだけの形です |
T(), Transpose(perm...) |
最後の 2 軸を入れ替え / 全軸を並べ替え |
Reshape(shape...) |
1 つだけ -1 を書けます。バッファは共有します |
Softmax() |
最終軸に対して |
LayerNorm(gain, bias, eps) |
最終軸に対して。gain と bias は特徴量ごとに 1 要素で、nil でも学習対象でも構いません |
Embed(ids, shape...) |
(vocab, d) のテーブルと len(ids) 個の添字 → shape…, d。同じ id が複数あれば逆伝播で加算されます |
Conv2D(w, bias, cfg) |
(batch, channels, h, w) を (channels*k*k, outChannels) の重みで畳み込み → (batch, outChannels, outH, outW) |
Im2Col(cfg) |
畳み込みが掛けるパッチ展開そのもの |
MaxPool2D(size), AvgPool2D(size) |
最後の 2 軸を正方窓で。ストライドは窓と同じ |
Sum(), Mean() |
全体を 1 要素に集約 |
SumAxis(axis, keepDims), MeanAxis(axis, keepDims) |
1 軸を集約。負の軸は末尾から数えます |
ReLU(), LeakyReLU(a), Sigmoid(), Tanh(), GELU(), Exp(), Log(), Sqrt() |
要素ごと |
Dropout(rate, rng) |
要素を落として生き残りをスケール。マスクは 1 度引かれ、逆伝播も同じものを使います |
MSELoss(target), SoftmaxCELoss(target), CrossEntropy(labels []int) |
スカラー損失。交差エントロピーは最終軸をクラスとして読みます |
グラフはステップごとに動的に組み立てる使い捨てです。形状の不一致はエラーではなく構築時の panic になります。エラーを返すとチェーンが書けなくなりますし、形状違いはプログラミングのミスだからです。すべての演算の勾配は、テストで数値微分と突き合わせて検証しています。
畳み込み¶
畳み込みは Im2Col と積です。展開が各出力ピクセルを「それを作ったパッチの 1 行」に変え、重みは出力チャネルごとに 1 列です。
// x は (batch, channels, height, width)、w は (channels*k*k, outChannels)。
h := x.Conv2D(w, bias, autograd.Conv{Kernel: 3, Pad: 1})
h = h.ReLU().MaxPool2D(2)
Conv2D は部品を組み合わせているだけ (x.Im2Col(cfg).MatMul(w).Transpose(0, 2, 1).Reshape(...) にバイアス) なので、時間を使う積は GPU が速くするのと同じ積です。組み合わせで足りないときのために Im2Col は単体でも公開しています。MaxPool2D は勝った位置に、AvgPool2D は窓全体に勾配を配ります。順伝播は Sequential が使う layer.Conv2D と一致します。
ブロードキャスト¶
要素ごとの演算は末尾の軸を揃え、長さ 1 の軸を引き伸ばします。(1, 1, d) のバイアスが (batch, seq, d) の活性に足せるのはこのためです。勾配は逆向きに同じ規則に従い、引き伸ばした軸ぶんだけ合計されて戻ります。バイアスも、特徴量ごとの LayerNorm の gain も、バッチで共有した重みも、それを使った全位置の寄与を特別扱いなしに集められるのはこの一点のおかげです。
Attention の組み立て¶
マルチヘッド attention は reshape と transpose とバッチ積 2 回です:
// x は (batch, seq, model)、wq, wk, wv, wo は (model, model)。
heads := func(t *autograd.Node) *autograd.Node {
// (batch, seq, model) -> (batch, head, seq, headDim)
return t.Reshape(batch, seq, nHeads, headDim).Transpose(0, 2, 1, 3)
}
q, k, v := heads(x.MatMul(wq)), heads(x.MatMul(wk)), heads(x.MatMul(wv))
// 全シーケンス・全ヘッドのスコア (batch, head, seq, seq) を一度に。
att := q.MatMul(k.T()).Scale(1 / float32(math.Sqrt(headDim))).Add(mask).Softmax()
y := att.MatMul(v).Transpose(0, 2, 1, 3).Reshape(batch, seq, model).MatMul(wo)
mask は (1, 1, seq, seq) の定数 Input で、対角と下側が 0、上側が math.Inf(-1) です。バッチとヘッドにブロードキャストされ、softmax が未来の位置に重みを与えなくなります。_example/tinygpt はこれをそのまま使った文字単位の transformer (pre-norm ブロック、GELU の feed-forward、次文字の交差エントロピー) で、1 分ほどで 1 ページ分のテキストを覚えます。
Tape によるバッファ再利用¶
グラフはステップごとに組み立てて捨てるので、既定では中間値と勾配のすべてを毎ステップ確保し直します。Tape はそれを再利用します。パラメータを一度 Bind して、ステップの最後に Reset するだけです:
tape := autograd.NewTape()
tape.Bind(w1, b1, w2, b2) // op は親から tape を引き継ぐ
for step := 0; step < steps; step++ {
trainer.Step(forward(x).MSELoss(y))
tape.Reset() // このステップのバッファをプールに返す
}
規則は学習ループが元々守っているもの 1 つだけです: Reset の後、終わったステップの値を読んではいけません — Value も Grad もです。パラメータの値は再利用されない (tape が持つのは op が作ったものだけ) ので、学習した重みはいつでも保持して安全です。それ以外を残したいときは Clone でコピーしてから Reset してください。Tape は並行利用できないので、学習ゴルーチンごとに 1 つ持たせます。
32 ステップを展開する _example/charrnn では、1 学習ステップの確保量が 22MB から 0.75MB に減り、実時間も約 1/4 短くなります。
同じ再利用は 1 段下でも使えます。MatMulInto, MatMulTNInto, MatMulNTInto, AddInto, SubInto, MulInto, DivInto は、行列に対する DotInto と同じように、呼び出し側が持つテンソルに書き込みます。
グラフを GPU で走らせる¶
tape はグラフ全体をデバイスに置けます。値も勾配も Adam の更新もデバイスに留まり、毎ステップ帰ってくるのは損失だけです:
dev, err := gpu.Open(gpu.HighPerformance)
if err == nil {
defer dev.Close()
tape.UseDevice(dev)
}
tape.Bind(params...) // パラメータは一度アップロードされて常駐する
Value() と Grad() は必要になった時点でダウンロードするので、ノードを読むコードはそのまま動きます — これがフィールドではなくメソッドである理由です。Resident() は値が今どちらにあるかを返します。
デバイスにカーネルがある演算はデバイスで走り、それ以外は CPU にフォールバックして、その演算に必要なぶんだけ持ち帰ります。対象は 3 つの積、繰り返しオペランドを許す要素ごとの演算、Scale、ReLU/tanh/sigmoid/GELU とその勾配、LayerNorm、Softmax、Transpose、Reshape、Embed (scatter-add 込み)、ブロードキャストの集約、そして Adam の更新 — つまり transformer ブロックはまるごと常駐し、バスを渡るのは損失だけです。
-tags wgpu24 経由の AMD 780M で、x @ w1 -> GELU -> @ w2 -> MSE の 1 ステップ:
| モデル幅 | CPU (AVX2) | アクセラレータフック | 常駐グラフ |
|---|---|---|---|
| 512 | 31.1ms | 30.8ms | 13.1ms |
| 1024 | 172.8ms | 93.2ms | 33.3ms |
| 2048 | 1382ms | 442ms | 193ms |
transformer ブロック (因果マスク付き pre-norm attention + GELU の feed-forward、batch 8・系列長 128・語彙 512) の学習は:
| モデル幅 | CPU (AVX2) | 常駐グラフ |
|---|---|---|
| 256 | 83.5ms | 47.0ms |
| 512 | 209.3ms | 54.3ms |
フック (tensai.UseAccelerator) は積を 1 つずつデバイスに送るので積ごとに往復しますが、常駐ではバッチのアップロード 1 回と損失のダウンロード 1 回で済みます。どちらもオプトインで、併用も可能です (tape にデバイスがあるときフックは参照されません)。
グラフの可視化¶
loss.ToDot() は Graphviz の DOT を返します (リーフには .Named("w1") でラベルを付けます):
リカレントネットワーク¶
rnn.Cell と rnn.LSTMCell は自動微分エンジンの上に乗っているので、系列の展開はただの Go のループで、BPTT は自動で付いてきます:
cell := rnn.NewLSTMCell(inSize, hidden, rng)
wOut := autograd.Param(tensai.RandomMatrix(hidden, numClasses, rng))
bOut := autograd.Param(tensai.NewMatrix(1, numClasses))
trainer := autograd.NewTrainer(optim.NewAdam(0.01), append(cell.Params(), wOut, bOut)...)
for step := 0; step < epochs; step++ {
h, c := cell.InitState(batch)
for _, x := range steps { // 1 時刻あたり (batch x inSize) の行列 1 枚
h, c = cell.Step(autograd.Input(x), h, c)
}
logits := h.MatMul(wOut).AddRow(bOut)
trainer.Step(logits.CrossEntropy(labels)) // labels はクラス番号の []int
}
_example/charrnn は埋め込んだパブリックドメインのテキストで文字単位の LSTM を学習し、読み直したパラメータから文章を生成します。
rnn.SelfAttention はシングルヘッド・1 系列版です。attn.Forward(x) が (seqLen, inSize) のノードに対して学習済み射影付きの softmax(Q*K^T/sqrt(d))*V を計算し、素の rnn.Attention(q, k, v) も公開されています。バッチとヘッドが要るときは上のブロックを書いてください。
パラメータの保存¶
自動微分のパラメータは順番で保存・復元します:
autograd.SaveParamsFile("cell.json", cell.Params()...)
// 同じセルを組み立ててから
autograd.LoadParamsFile("cell.json", cell.Params()...)
任意のランクのパラメータが往復します。2 次元のものは以前のチェックポイントと同じエンコーディングを保つので、エンジンが n 次元になる前に書いたファイルもそのまま読めます。